2人が帰った後、残った2人は夕食の片づけをしていた。
「美也ちゃん、ほんとにこの前はありがとう… 一人で病院行きたくなかったんだ」
タケトは照れくさそうに美也に話した。
「だって、あのときタケト君動揺してたし… ほっとける状況じゃなくて…」
「ほんとにありがとう… 美也ちゃんのおかげでずいぶん自分が冷静でいられたんだ!」タケトの本音だった。
やっぱり唯一の身内が倒れたのである。
動揺するのも当然であるが、身内同然とも言える美也が近くにいたおかげで
タケトは病院の中でも冷静でいられたのだ。
「ありがとう…」
つぶやくようにタケトは美也にそう言った。
美也は、そんなタケトのありがとうが聞こえなかったのか、鼻歌交じりで皿洗いをしてる。
タケトのありがとうには、今回のことだけのありがとうではなかった。
過去に、同じような感じで美也に励ましてもらったことがある。
タケトの両親が事故で死んでしまったときだ…
そのとき、2人残された寿文とタケトであったが、寿文はさすがに涙を見せなかった。
それに対して、タケトはそれからしばらくの間はずっと落ち込んで
何に対しても口を聞かないようになってしまった。
//過去の回想//
「おかーさん〜 おとーさん〜 うわぁ〜ん!!」
タケトは泣きじゃくっていた。
いっぺんに両親を2人とも失ったのである。
そのとき高校生だった兄寿文は、弟のタケトに対して何も言うことができなかった。
まだ、幼い子供に対して両親の死に際に泣くなというほうが無理な話である。
しかも、寿文に対しても同じように両親を失ったのである。
そんな寿文に、タケトを制止できるはずもなかった。
それから数日が過ぎた。
タケトは、両親のいない生活に慣れないまま学校に行かなくてはならなかった。
ここ数日は寿文が必死にかまってくれていたが、急に孤独を感じるようになった。
学校に行きたくない…
タケトは一人川原へと向かった。
小さいころよく両親につれてきてもらった場所。
お父さんにはキャッチボール、その横でお母さんと寿文がビニールシートを広げて
遊んでいる。
ある日曜日の光景、そして当たり前の日曜日の光景を思い出していた。
寿文は当時いたずら好きだった。
タケトは、寿文にいたずらをされて泣いてしまったことも多々あったが
同時によくタケト自身にいたずらを教えてくれたこともあった。
寿文と一緒に、お母さんを驚かしたっけ… タケトはそんな光景を思い浮かべていた。
いつのまにか寝ていた。
家族がみんないる状態で… あの楽しかったころの夢を見ながら…
「あ、岩瀬君だ〜〜 今日学校はどうしたの?」
何時間たったのだろう。
寝ぼけながら、声に反応して起きた。
寝ぼけている状態のところに、ある一人の女の子がやってきた。
彼女の名は『北原 美也』。
実は、彼女は目に病気を抱えていて近いうちに目の手術をするそうなのだ。
彼女は、同じマンションに住んでいるがお互いに顔見知り程度であった。
彼女もあんまり学校に来ることはなかった。
そういう事もあり、クラスのなかでは友達らしい友達はいなかった。
タケトが、彼女が気楽に話ができる唯一の存在だったのだ。
「ねぇ〜、岩瀬君。 学校は??」
彼女が聞いてもタケトは川原を見ながらムスッとしている。
どうやら、タケトは今日は誰とも話したくない気分らしい…
「もしかして、まだ事故のことを気にしてるの?」
タケトはドキッとした、明らかに動揺はしていたが、黙っていた。
「タケト君、元気だしなよ〜 私も元気だから…」
美也は当時、目の病気のことでみんなにいじめられて元気ではなかった。
精神的にまいってたに違いない…
そんな美也は、タケトの周りにはいつもいた。
タケトは、そんな美也を見ていやな気分はしなかったがクラスメートからからかわれて
何回かいじめたことがあった。
そんなことをしてるタケトに対して、美也はタケトを今励ましてくれてるのだ。
しかし、タケトはムスッとしたまんまだった。
「タケト君が、悲しいのはよくわかるよ。 でも、学校に来なきゃだめ!」
いいかげん、タケトは美也のことがうざいものになっていた。
「おい、いいかげんにしろよ。お前は両親がいるからそんなことが言えるんだよ!!
だから、元気出せとか言えるんだろ!! お前は、目が見えなくったって親がいるからいいもんな!! 俺の事なんかかまうなよ!!」
その言葉を聞いた瞬間、美也は泣き出してしまった。
美也にとって、目の事を言われるのが一番ショックなのだ。
タケトは、美也をいじめた事はあったが他のクラスメートみたいに
目の事でいじめた事はなかった。
いま、初めて目の事をタケトに言われて相当ショックだったのであろう。
泣き出した上に走り去ってしまった。
この時に、タケトは『フンッ!!』と思いながら、また寝ようとしていた。
これで、邪魔な美也は消えた。
ゆっくりと寝れる。
しかし、タケトはその後決して寝れる事はなかった。
両親の事が原因ではなかった。
考える事は美也の事ばっか…
『さっきは言いすぎた…』『あいつないてたな…』
『あいつにとって目の事は言ってはいけなかった』
子供ながらに、そんな事を感じ取っていた。
やっぱり、タケトも人に気持ちがわかる優しい少年だったのだ。
タケトは、起きあがって美也を探しに行った。
時間にして、午後5時半… 決してタケトの年の子が外にいるような時間ではなかった。
タケトは、自分の家と同じマンションの中にある美也の家をおとづれた。
「こんばんわ、美也ちゃんはいらっしゃいますか??」
美也のお母さんは、タケトのお母さんと仲良しであった。
そういうわけで、タケトの事もよく知っていた。
「美也、帰ってこないのよぉ〜 いつもだったら、絶対に帰ってくるのに…
あの子何やってるのかしら??」
心配そうにタケトに話してくれた。
その話を聞いたタケトは、自分自身にすごい責任を感じていた。
自分が目の事を言って美也を傷つけたからだ!!
タケトは必死になって美也を探そうとした。
そのとき、丁度帰ってきた兄貴につかまってしまった。
「こら!! お前今日学校に行かなかっただろう… 部屋に来い!!」
ものすごい剣幕の寿文に、タケトは美也を探しに行けず部屋に連れて行かれてしまった。ドアの前に連れて行かれたタケトは、部屋の新聞受けに何か挟まってる事に気づいた。
下手な字で、随分ボロボロな紙にかろうじて一番上に書いてある『タケト君へ』
の文字は読む事ができた。
そして、四角が書いてあって矢印が一番上の所を示しているような紙であった。
「なんだそれは? ゴミか??」
寿文にまったくわからないものであったが、タケトは十分に理解していた。
美也は、ほんとに困ったときにタケトに助けを求めてきていた。
学校の机の中、ランドセルの中、下駄箱の中… その他いろいろ助けを求めてきた。
そして、タケトのこのようなメッセージを送るときは、必ず目の事を悪く言われたときだった。
タケトは、そのメッセージを受け取ると必ず美也のスーパーマンとなってかけつけていた。
呼び出される場所は、学校なら屋上の2人の間で秘密基地と呼ばれる所だった。
「兄貴、ゴメン。 お説教ならあとでたっぷり受けるから 今だけ見逃してくれ!!」
「あ、こら!! タケト!!」
兄貴はものすごい形相でタケトを追っかけたが… タケトは小さな壁穴を利用して逃げてしまった。
「絶対に許さんぞ〜〜!!」
寿文の声がむなしく響いてるだけであった。
時間はもうそろそろ夜の7時になろうとしていた。
「まったく、タケトのやつ何処をほっつき歩いてるんだ!!」
寿文の怒りは収まっていない
ピンポ〜ン
そのときに、ドアのチャイムがなった。
寿文が玄関で応対すると、相手は美也のお母さんであった。
「家の美也が来てないでしょうか? 夜になるとほとんど目が見えなくなるので
心配になって聞きに来てみたんですけど…」
お母さんは落ち着かない様子で寿文に聞いてきた。
「いや、うちには来てないようです。 ついでにうちのバカタケトもどっかに行ってしまったんですよ。」
「このまま、捜索願を出したほうがよろしいのでしょうか??」
「いや、待ってください! 私の一緒に探しますから… それからでも遅くないでしょう…」
「ありがとうございます すみません、ご迷惑かけてしまって…」
「いえいえ、こっちもタケトを探さなければいけませんから…」
このとき、タケトは学校の屋上の秘密基地にいったが、美也の姿を見つけることができなかった。
そのあと、必死でいろいろなところを探しまわったが、やっぱり見つけることはできない…
そのときに、タケトはある事実にきづいた。
秘密基地は、1つだけではなかったのだ!!
実際に使ったことのない2人だけの特別秘密基地…
そして、今回の事は学校の外で起きた事であると言う事…
タケトは、ほぼ確信に近い自信ををもって美也のいるだろうと思われる場所に向かった。