涙のシャワー

大晦日の午後、母親から頼まれた買い物を済ませ北原美也は家路に急いでいた。
ふっと 薄いオレンジ色の物体に気づき足を止めた美也の耳に「ミュー」と言う子猫の鳴き声が聞こえた。
近くの大きな木の下に横倒しになったダンボールの箱が置いてある
寒さと飢えで箱から這い出てきたのだろうと美也は思った。

近づいて手を差し伸べると、子猫は震える足で歩みより美也の手に頬を寄せてきた!!
子猫の柔らかい毛の感触が美也の手に直接伝わる
「かわいいー!!」
思わず抱き上げると、動物特有の匂いが美也のはなをくすぐった。
生後まだ一・二週間位の子猫は「ミャー ミャー」と美也に甘えるように泣きつづけている
動物の赤ちゃん独特の大きな眼は不思議とオレンジがかっていて、それが美也の胸を締め付けた。
「こんな寒空の下でかわいそうに、私が飼ってあげるから安心してね、子猫ちゃん」
美也は大事そうに子猫をコートの胸元に入れ、子猫がビックリしないようにユックリと歩き始めた。

家の玄関の前までたどり着いた美也は、子猫の事をどうやって切りだそうかと迷っていた・・
「こんな可愛いい子猫ちゃんだもの、飼って良いて言ってくれるはず・・
そうよ、私の正直な気持ちを伝えればいいのネ」
美也はそう呟いて勢いよくドアを開けた
美也は両親の前に子猫を見せ
「どうしても飼いたいの・・12月の寒空にこんな小さな子猫を置いておけないわ!!
私が全部面倒見るから、ネ いいでしょ・・お願い!!」
美也は両親にどうにか自分の気持ちをわかってもらおうと必死だった
「ネェ見て!!毛並みや目の色がオレンジぽいでしょ・・
こんな可愛いい子猫ちゃんは何処を探してもいないわ・・」
子猫をどうしても飼いたいと言う美也の切なる思いが両親に届き、子猫を飼うことを許してくれた。
美也は子猫に温めたミルクを与え、可愛いい音色の良い鈴を子猫の首につけ
「美しい鈴の音のような鳴き声をしているから美鈴(ミレイ)って言うなまえがいいわね♪」
そう言って自分のベッドの上に小さな箱を置き、タオルをひいてミレイを寝かせた。
「美也〜ご飯よー」
母親の呼ぶ声に「はーい 今行くー」と答え部屋を出て行った・・
その時、美也はミレイの異変に気づかずにいた。

「美也、箸が止まってるわよ…」
母親のこの言葉を聞いたのは3度目である・・
美也は先ほど寝かしつけたミレイの事を考えていた
動物を飼うのは初めてとはいえ、あまりにも早めに寝付いたミレイが気になる・・
寝ていると言うよりも・・何故か元気が無かったような気がする・・
そんな事を考えていると、ついつい箸が止まっていた
ミレイの事が気になる美也は夕食を早めに終え部屋に戻り
「ミレイ!!」
と声を掛けベッドに駆け寄った。
箱の中を覗き込んだ美也は、ミルクを吐き出しグッタリしているミレイの姿に驚き
「ミレイ、ミレイ、どうしたの?」と声をかける・・
抱き上げたミレイの息は荒く、とても苦しそうにしている・・
ミレイの身体は火のように熱く、体中の毛がしっとりと濡れていた・・
この寒空の下・・ミレイは一体何日あそこにいたのだろう・・・?
美也の胸に不安がよぎる
しかしその夜は大晦日の夜である・・・
もちろん、こんな夜に医者が開いているはずも無く・・近くの獣医も年末年始の休みに入っていた
こんな夜は何処に行っても無駄だということを悟った美也は
以前TVで「急な病気の場合、動物に人間の薬を与えても良い」という言葉を思い出し、風邪薬をミレイに与えることにした!!
しかし、ミレイは生まれて程ない子猫である・・・
そこで、美也は風邪薬のカプセルを開け、ほんの一つまみを温めたミルクに溶かし、そのまま与えてもミレイは受け付けないと思い、スポイトでミレイに与えることにした
ミルクで汚れたタオルを代え、しめった毛並みを拭いてやりながら
「ミレイ・・がんばって・・・大丈夫 私がついているから!!」
と何度もミレイに声を掛け励ました。
またミルクを吐き出さないか気にかかり、その夜は一睡もせずにミレイの看病をしていた!!

はっ と美也は我に返った・・・
徹夜で看病をしているうちに、つい ウトウト してしまったらしい
慌ててミレイを見てみると、ミレイの姿がない・・・・
立ちあがってミレイを探そうとした時、膝の上の温もりに気がついた・・
なんとミレイは箱を抜け出し、美也の膝の上で寝ていたのである!!
ミレイは美也の看病により順調に回復し、今は穏やかな寝息をたてていた
美也は安堵のあまりあふれ出る涙を止める事が出来きず
その涙はミレイの上に温かいシャワーのように降り注がれた。
その涙のシャワーにミレイが 「ミャー」 と元気な声をあげた!!
「良かったね 良かったね ミレイ 元気になって!!」
美也はミレイを抱き上げ、何度も何度も頬擦りした。

元旦の朝、美也の様子を見に来た母親は
「まあまあ、布団もかけずに・・・この子ったら・・」
美也に抱かれグッスリ寝ているミレイ達の姿に微笑んだ
美也に布団をかけてやり、黙って部屋を出て行った!!

子猫のミレイが美也の為にワイルドハーフとして目覚めるのは、これから2年先の話である。

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